思考のかけら
時ははるかなずっと昔から、止まることなく川のように流れていて、人の手にはとても負えそうにない。それでも、少しでも川の流れを手ですくいたい、その手で温かさや冷たさを感じ取りたい、そんな気持ちから、一区切りの時代という概念が生まれた。 時代を分…
仮に自分の妻と子供が同時に崖に落ち、片方の手に妻の腕を、もう片方の手に子供の腕を掴んだとして、いずれはどちらかの手を離してもう片方を助けなければ皆落下してしまうとしたら、どちらを助けるだろうか? 「俺は嫁を助けるかな。子供はまた産めばいい。…
女にとっての誕生日とは、自分の価値が目減りしたことを思い知らされる、一年に一度の悲劇である。とりわけその悲劇の前日ともなると、まさにこれから処刑場へと案内される囚人のような心細さと恐怖を感じずにはいられない。 一年前の自分の写真を取り出し、…
学校や役所、病院など、ほぼ全ての市民が利用する機関が話題に上がる際、少なからず耳にする言葉が「世間知らず」という言葉である。学校の先生は大学を卒業してそのまま先生になるから世間を知らない、とか、公務員の常識は世間の非常識、とか、病院の先生…
三カ月前に壁に叩きつけた蚊の死体がまだ残っている。叩きつけた瞬間の姿は、過去見た多くの蚊の臨終の時と同じように、ありきたりでつまらないものだった。切れた弦を垂らすかのように、未練がましく後ろ足をゆっくり伸ばして死んでいった。腹から血を吐き…
田舎のとある飯屋の軒先に、一匹のうり坊が頑丈な一本の赤い綱で繋がれているのを見た。そういえばどうしてうり坊はうり坊と呼ぶのだろうかとぼんやりと、そういえばうり坊のうりとはなんなのだろうかとまたぼんやりと考えながらじっとうり坊を見ていると、…
シュパンヌンクとは日常に溢れたものである 今ここでキーボードを叩いている指先の感覚、これはシュパンヌンクである ベランダから差し込む光と、その光により生み出されるカーテンの淡い影を視覚で捉える、これもシュパンヌンクである 昼飯前の腹の鳴りと収…
あの家の下、あのスーパーの下、あのビルの下には何が眠ってるんだ。絶対何かあるよな。あそこで発掘調査をしてる。小学校の運動場くらいの面積か。そうだ全部そんな風にすればいいんだよ。全部調査だ調査。全部の建物ぶっ壊して、そこかしこの土全部掘り返…
高校野球には独特の熱気がある。テレビ中継で見ているだけでは、実際の熱気の10分の1程度も味わうことはできないだろう。高校野球はライブ感の極みなのである。 この熱気が最高潮に達するのは、9回の逆転がなるかどうかという瀬戸際の場面である。勝負の緊張…
美術館ではお馴染みの注意書きである。作品保護のためには、まず作品を保護するガラスから保護しなければならない。 普段美術館に行かないようなファミリーが何かのイベント開始までの時間潰しに展示室に押し寄せ、子供がベタベタと汗まみれの手をガラスにご…
みなさん、こんにちは!大人気コーナー、すこやか診断のお時間です! お仕事中のサラリーマンも、お昼寝中の奥様方も、どなたも片手間耳だけ貸して!日頃の鬱憤掴んで投げろ!夢のひと時あなたと共に! というわけで今日はこちら!穴埋め性格診断です! これ…
[31歳] 自分の年齢を示すような数字には敏感である。 カレンダーを見ると、1から31まで数字が振られている。19日までの日付を見ても、自分には全く関係のないものに思われる。しかし、20日から先は違う。この20という数字からは、汚してはならない神聖な光…
○月○日 今日は初めて彼をお父さんに紹介した。お父さんは黙って突っ立ってただけ。 彼の家柄の話をしても、「金持ちの相手はできへんで」って何度も言う。うちだって普通の家庭なのに。 ○月○日 彼のご両親との初顔合わせ。都内のホテルで。お父さんはスーツ…
夏に向けて日に日にその力を蓄えつつある太陽が、一切の雲を寄せ付けずカラリと輝いていた。街のアスファルトには、晴れ晴れとした陽気な休日を存分に楽しもうと外へ出てきた人々の影が、あちらこちらに行ったり来たり、伸びたり縮んだりしていた。主人と寄…
夜には一人で歩いた。別に邪魔するやつもいなかった。あの門はいつも開いている。ここには門限なんてないんだ。お、あんたは今帰りかい。名前も特に知らないけど、きっかけさえあれば知ってたかもしれないし、もしかしたら今日一緒に出歩いてたかもしれない…
スーパーの惣菜売り場で、とある主婦が商品を手に取り、夕食をどうするか考えていた。 彼女が気になったのは、一本の巻き寿司であった。透明のプラスチック容器に入れられた巻き寿司は、外見からその全貌を目で見て確認することができた。彼女は巻き寿司を手…
工場の屋根にとまる小鳥の群れを見た。下から見上げる限りでは、屋根の縁にとまる姿しか確認できなかった。おそらく雀だろうが、それすら定かではない。 彼らが騒がしく鳴く声が聞こえる。いや、騒がしいと感じるのは、心にゆとりのない者だけだろう。そうで…
年が明けて頭に浮かぶ共通の大行事としては、初詣がまず挙げられる。日頃は信心深くない大多数の日本人も、この時期は皆で示し合わせたかのように神を信じるか、信じているような気になる。 よしんば全く神を信じていなくとも、初詣という行為自体に意味を見…
急ぐ車。普段の通勤時間に見られるような飛ばし方ではない。嫌々ながら走っているわけではない。向かう先に早く着きたいという、喜ばしい期待感にあふれている。窓越しに見える車内の顔も、優しくほころんでいるようだ。 郵便局。年内に郵便窓口に駆け込む人…
小学校の校区の一画には、「しらない人にもあいさつしよう」という立て看板が置かれていることがある。どんな人とも挨拶をして、地域の人々との繋がりを大切にしようというわけである。物怖じせずにコミュニケーションを取れる子供を町ぐるみで育てたいので…
こんなところで何を? 「見ればわかるでしょう、子供たちにプレゼントを配ってるんですよ。」 お仕事は何を? 「今はしてませんよ。どうでもいいでしょうそんなこと。」 ご家族の方は? 「一人ですよ。それ以上は聞かないでください。」 この辺りに住んでお…
ボタンを押せばすぐにつながるあの人とさえすぐに話せる 最後の一桁がいつも押せない怯えて一からやり直す 頭の中では何度も話したあとは口に出すだけ簡単なこと 通じると思えば辛くなるいっそ無理ならどれだけ楽か 私の糸はほんとにあるのかほんとに誰かと…
先日訪れた美術館で、中学生の団体が先生達に引きつられて鑑賞に来ていた。どの子も課題となる感想レポートを手に持ちながら、限られた時間内でのクリアを目指していた。 横に解説が書かれている大きめの作品は取っ掛かりやすいらしく、多くの子が集まって課…
マンションなどの集合住宅のポストの脇にはゴミ箱が置かれていることが多い。日々頼みもしないのに勝手に入れられる不要なチラシはこちらにどうぞ、というわけである。 捨てられるチラシは大体いつも決まっていて、住宅販売のチラシやピザ屋のチラシ、ネット…
近所に老夫婦が営む昔ながらの銭湯があり、週一回はお世話になっている。 玄関は開けっ放しで、外から男湯と女湯の入り口が見える。入り口の仕切りは曇りガラスになっているのだが、気合いを入れて目を凝らせば、男女どちらの脱衣場も透けてしまいそうなほど…
おめでとう。 君はまた一つ歳をとったね。 僕も昨日よりまた一つ歳をとったよ。 君は一年に一度だけ歳を数える。 僕は毎日歳を数える。 お互い同じ時間を生きてきたけど、僕の方が君より365倍も歳上なんだな。 君は去年も同じ月と同じ日に誕生日を迎えた…
未だ枯れえぬ想いの樹誰が水やり誰が陽をやる 愛と呼ぶのは重すぎる恋と呼ぶのは軽すぎる 愛は真心恋は下心いつでも心は日の目を見ない 誰にも教えを請うことなく誰にも教えを説くことなく 春は過ぎ去り夏が行く秋は遠のき冬が来る 1年2年3年4年待てど暮…
一つの時代が終わりを告げて 新たな時代が私を導く 遠く忘れた思い出が いつでも私の心を捕える 誰とも知らぬ人の背中に 恋の記憶を探し求める 昨日と同じ今日を生き 今日とは違う明日を願う 皆と同じ方を向き 誰とも違う道を行く 一人で生きていけるさと 強…
遠足の前日、元気のいい男の子が「先生、バナナはおやつに入りますかー?」と尋ねるという、誰もが知っているワンシーンがある。私としてはバナナもおやつに入れて問題ないと考えているが、ここではその可否は問題にせず、そもそも何故バナナをおやつに入れ…
<神父> 「あなたは健やかなる時も、病める時も、富める時も、貧しい時も、この人と愛し合い、支え合い、共に生きていくことを誓いますか?」 <新婦> (ああ、とうとうこの時がやってきたのね。未来の旦那様は今さっきキリッと「はい、誓います。」って言…