思考のかけら

日々頭に浮かんだことを、徒然に雑然と書いていきます。

料理の感想を述べる前の唸り声

食事の際に料理の感想を求められた人の姿を思い返してみると、多くの人が感想を述べる前に「ん~!」と唸り声を発していることに気づいた。

料理のレポート番組でも、一般人の日常の食事風景の中でも、同じ現象が見られる。

そしてこの現象は、それほど親しくない人間関係の中でより顕著に現れるようである。
 
 
料理を口に入れた直後に口を開ける行為は、食事作法の観点からすると望ましくないと考えられている。
しかし現場ではそれほど親しくない人が隣にいて、料理の感想を求めているのである。
このような隣の人と共有する空間では、沈黙という空白の時間は最も恐ろしく、出来る限り避けたいものである。
早く感想を言わなければ沈黙の時間が増える上に、黙っていると「美味しくなかったのではないか?」と邪推される恐れもある。
本当にお世辞にも美味しくない場合でも、世渡りを重視する場合はありのままを口にするわけにもいかない。
このような場面で感想を求められた人の脳内では、次のような独り言が語られている。
 
「早く感想を言いたいのは山々なんですが、食事作法の観点からすると今口を開けるのは望ましくないので、残念ながらすぐにはお答えできません。しかし一段落ついたら必ずお答えしますので、その事前の意思表示として、この唸り声を出させていただきます。」
「今私は口の中で料理を噛み締めています。噛みながら何かを発するのは大変難しく恥ずかしいことなのですが、その衝動を抑えられないほどにこの料理は美味しいのです。その衝動の証として、この唸り声をお聞かせします。」
 
このような一瞬の独り言の結果として発せられるのが「ん~!」の唸り声である。
この唸り声を枕詞として、後続に料理への賛辞を述べるのである。
 
 
これから食事中の唸り声を耳にしたときは、今日考えたことを思い出して、唸っている人の心中を察することにしよう。