私的名画⑤ ゴッホ「最初の一歩」
自分のための備忘録として、好きな絵に対する思いを残しておこう。
本日掲載するのは、ゴッホによる「最初の一歩」である。
一家族の穏やかな日常風景が描かれている。
画題からすると、この子はようやく歩き始めた頃だろうか。
すでに母の前で歩く姿を見せてはいたものの、父にはまだその姿を見せていなかったのかもしれない。
母が子どもを外に連れて行って、父にわが子の歩く姿を見せようとしている。
母はこの子に手を添えているが、歩き始めたらその手を離して後ろから温かく見守るだろう。
父は農作業をしていたのだろうか、手にしていた作業具を放り出し、両手を広げてわが子を迎えている。
この子の顔は明るく微笑んでいる。
父と母の顔は私からは見えないが、 その表情は穏やかな幸福による笑顔で満たされているに違いない。
子どもが前のめりで不安定な姿勢のまま、ふらつきながら親の元に歩いていく姿は、実際にはそれほど長い間見られるものではない。
子どもはいつの間にか大きくなって背筋を伸ばし、自信を持って二本足で歩くようになる。
そう考えると、ここに描かれた「最初の一歩」は、この家族に一度しか訪れない場面かもしれない。
とても素朴な家族愛に満ちた絵で、見るたびに優しい気持ちになれる。
私の「最初の一歩」はどんな風だったのだろう。
私もこの子のように、父と母に温かく見守られていたのだろうか。