思考のかけら

日々頭に浮かんだことを、徒然に雑然と書いていきます。

好きな人との日直当番

ふと中学生の頃を思い出す。

私の学校では毎日、日直当番というものがあった。授業の開始時に号令をかけたり、休み時間の間に黒板を掃除したり、クラスの一日を日誌にまとめたりするのが主な仕事だった。
この当番はいつも男女ペアとなるように、それぞれが名前の五十音順で日々交代していくという形式だった。
その日の仕事で手抜かりが見つかると、翌日も同じペアで当番にあたらなければならないというペナルティも存在した。

 

私はある日運良く、好きな人とペアになることができた。
いつも隣の席になりたいと思っていたあの人と、堂々と一緒に仕事ができる!
私は嬉しさで浮き足立っていた。

 

日直当番は朝早めに登校し、他の生徒が来る前に教室の窓を開けたり、簡単な掃除等をしなければならない。
私は喜んで早めに学校に行き、短い朝の時間を最大限に活かせるよう努力した。
相手が来る前に朝の仕事をほぼ終えてしまい、お互いに手持ち無沙汰になってしまうほどに張り切っていた。
空いた時間は二人でたわいもない雑談をし、楽しい時間を過ごすことに成功した。

 

朝の仕事は問題なく終わった。
普段通りに授業も進行し、最後の理科の時間になった。
この日の理科の授業は実験室で行われるため、皆が教室移動をすることになっていた。
もちろんこの移動の際にも、忘れずに前の授業で使った黒板を掃除しておかなければならない。
忘れていた場合、翌日も日直当番をさせられるというペナルティが発生する。
黒板掃除は私に任されていた大事な仕事であった。

私以外の全員が実験室に移動し終えたところで、自分も早く黒板を掃除して移動しようとした。
ここで黒板を掃除し忘れたりしたら、好きな人に失望されてしまう。それは絶対にあってはならない。

しかしこの時、私の頭に一つの考えが浮かんだ。
「ここであえて黒板を掃除せずにそのままにしておけば、明日もあの人とペアで仕事ができるのではないか?」
なんとペナルティを逆利用することを思いついたのである。
今思うと犯罪者一歩手前の変態的な発想であるが、当時は我ながら素晴らしい考えだと心の底から思ったのである。


そして私はこの考えを実行に移した。
あえて黒板を掃除せずに放置したまま、何食わぬ顔で皆のいる実験室へと向かったのである。

 

理科の授業が終り、教室に戻ってホームルームの時間になった。
案の状クラスメイトに黒板の消し忘れを指摘され、日直当番のやり直しが命じられた。
私は表面上は嫌そうな顔をしていたが、内心では計画通りに事が進んだことで満足の笑みを浮かべていた。
これでまた好きな人と日直当番の仕事ができる!


その時好きな人の顔に浮かんでいた表情を、私は今でも鮮明に覚えている。
その顔は、ちょうど道端に空き缶を捨てて平気でいられる人を見る時のような、軽蔑と落胆の色を帯びていた。
私はここでようやく、「好きな人から任されていた黒板掃除の仕事を、自分勝手な欲望と引き換えにポイ捨てした」、愚かな自分に気づかされたのである。

 

 

こんなみっともない思い出が、今でも強烈に心に残っている。
もう一度あの人に会えるのなら、あの日はわざと黒板を掃除しなかったんです、と正直に話して謝るだろうか。
そもそも相手はそんなことがあったことさえ覚えていないかもしれない。
しかし私にとっては、すごく惨めで少し微笑ましい思い出として、これからも忘れずに大切にしたい出来事の一つなのである。