思考のかけら

日々頭に浮かんだことを、徒然に雑然と書いていきます。

油売りの女

今月はずっと油を売っているのですが、全く売れません。
油はなかなか売れないものだと聞いてはいましたが、こんなに見向きもされないなんて思っていませんでした。
あのおばさんはこうなることを知っていて、私に油売りを勧めてきたんだと思います。
売る物が被るのは、この辺りでは喧嘩の元なのです。
喧嘩になる前に別の物を売るようにするか、もしくは相手に別の物を売らせるように持ちかけるか、ここではみんなそんなことばかり考えています。

 

油のついでにマッチも売っています。
実はこれは結構売れます。タバコを吸うおじさま方には受けがいいんです。
目の前でマッチを擦って差し上げると、スッと胸元から一本タバコを取り出して口にくわえて、私の手元にお顔を近づけてきます。
私は風で火が消えてしまわないように片方の手で守りながら、おじさまのお顔の下から優しくマッチを近づけて、タバコに火をつけて差し上げます。
おじさま方にはこれが嬉しいようで、こうして差し上げると大体の人は1箱買ってくださいます。
私も手馴れたもので、一本もだめにせずに上手いこと火をつけるんです。
あなたにも一本つけて差し上げましょうか?

 

いつまで油を売るのかと、よく通りがかるおじさまに言われます。
自分でもわかりません。
新しい油を買うお金もありませんし、古い油を捨てる場所もなかなかありません。
いっそこのマッチで全部火に変えてやろうかとも思うのですが、そんな勇気はやはり出ません。
だってもしかしたら売れるかもしれないんですもの。

 

あ、こんばんはおじさま。ちょっと待ってくださいね。
ふふ、はい、つきました。今日もありがとう。
うん、こっちは全然売れないの。
うん、また明日もいらしてね。

 

ごめんなさいね。いつものおじさまが来てくれたから。
あなたもマッチを1箱いかがですか?
古びた油もありますよ。なんならお一つタダで差し上げます。
持って帰っていただけませんか。