思考のかけら

日々頭に浮かんだことを、徒然に雑然と書いていきます。

居眠りの反省文

先生、今日は授業中に寝てしまってごめんなさい。次からは絶対に寝ないようにします。ごめんなさい。でも、謝るだけだと、ただ夜更かししたダメな子どもだと思われそうなので、わたしなりの理由を書いておきます。

わたしのお母さんは毎日夜遅くまでお仕事があるので、いつもくたくたになって帰ってきます。お母さんは疲れているのに、いつも晩ご飯を急いで作ってくれます。昨日もちゃんと作ってくれました。わたしが特に好きなのは、お母さんの野菜炒めです。学校の給食の野菜炒めはあんまり好きじゃないんですけど、お母さんの野菜炒めは大好きです。それから、晩ご飯の時は、お母さんと一緒にテレビを見ながら食べます。お母さんはドラマが好きなので、予約してある分を晩ご飯の時にまとめて見ます。

昨日見たドラマでは、男の人たちが何人かのグループで雪山に登っていました。その途中で吹雪がすごくなってきて、登っていた人たちが帰れなくなってしまいました。近くに古い山小屋があったので、みんなはそこで朝まで頑張ることになりました。人間は、あんまり寒い中で寝ると死んでしまうというのは、前に先生の理科の授業で聞いたので覚えていました。そのグループのうちの一人の男の人がすごく眠たそうだったので、他の人たちは、寝たら死ぬぞ、と言って、その人が寝ないように声をかけ続けていました。他にも、ちょっとでも目がさめるように、お笑いの話とか、最近のニュースの話とか、彼女に振られた話とか、みんなで色んな話をしてあげていました。でもみんなもすごく眠たそうで、目をつぶりながら話していて、一番眠ってしまいそうな人のこともあまり見てあげられませんでした。それで次の日の朝、みんなはウトウトしていたことに気づいて急いでその人に声をかけると、その人は夜の間に眠ってしまっていたようで、もう死んでしまっていたんです。

わたしはお母さんと一緒に、怖いねえ、かわいそうだねえ、とか言いながらそのドラマを見ていました。お母さんは食べ終わるとうとうとしてきたので、わたしは布団を敷いてあげました。そんなんせんでええ、ってお母さんはいつも言うんですけど、ほっといたら椅子で寝てしまうので、ちゃんと布団まで連れて行ってあげます。布団に行くとお母さんはまたすぐ寝てしまったので、私もテレビを消して、お風呂に入って、歯を磨いてから、お母さんと同じ布団に入りました。

お母さんはいびきをかいて寝ていました。いつも大きないびきをかいて寝るんですけど、ずっと前からそうなので、わたしは全然気になりません。わたしは布団の中で目を閉じました。そうすると、不思議と、さっき見たドラマのことが頭に浮かんできました。眠ってしまって、顔を真っ白にして死んだ男の人のことを思い出しました。

わたしは急に、寝るのが怖くなりました。寝てしまって死んだらどうしよう。寝たまま死ぬのってどんな感じなんだろう。死んでもずっと夢だけは見続けていて、死んだことには気づかないのかもしれない。もしそうなら、寝ながら死ぬのも、そんなに怖くないのかもしれない、と思いました。でもそれは、自分が死ぬ時だけです。わたしは、お母さんが死んだらどうしよう、と思いました。隣で寝ているお母さんが、朝になって全然起きなかったらどうしよう、と思うと、わたしはすごく怖くなりました。

わたしは布団から出て、お母さんが朝になっていつもみたいにちゃんと起きてくれるかどうか、座って見守ることにしました。お母さんの顔をじっと見ていると、大きな口を開けていびきをかいて寝ているので、なんだか可笑しくなってきました。自分も将来お母さんになったら、あんな風になるのかなあと思うと、ちょっと複雑でした。お母さんの手もよく見てみると、シワシワでゴワゴワしていました。自分も皿洗いとか仕事とかいっぱいしたらああなるのかなあと思うと、これも複雑でした。そんな風に、朝までお母さんのことを観察していました。ドラマの他の人たちみたいに途中でウトウトなんて絶対しない、と自分に言い聞かせて、朝までずっと起きていました。

朝になって、お母さんが目を覚ました時、お母さんに、あんた何してんの、と言われました。わたしが、お母さんがドラマの人みたいに寝たまま死んじゃわないか心配だったからずっと起きてた、と言ったら、お母さんは「あんたアホやな」と言って笑って、わたしをぎゅーっと抱きしめてくれました。その時わたしは、ああやっぱりお母さんは死なないんだ、と思って、すごく安心して、一気に眠たくなりました。

学校にはちゃんと行けたんですけど、最後の国語の授業ですごく眠くなってしまって、気づいたら居眠りしていました。ごめんなさい。そんなわけで、居眠りはあの雪山のドラマのせいです。今晩からはちゃんとお母さんが布団に入ったときに自分も寝るようにします。もう居眠りはしません。すみませんでした。