思考のかけら

日々頭に浮かんだことを、徒然に雑然と書いていきます。

老師との対話「種蒔き⑤」

老師

 

僕が見た夢には続きがあるんだよ。

夢の中で種蒔き人が種を蒔き終わると、驚くべき早さで季節が移り変わり始めた。春は心地よく、夏は蒸し暑く、秋は涼しく、冬は寒かった。それぞれの季節が種を育んだ。季節のもたらす風や光は、時にはきびしく、時には優しく大地を包みこんだ。

季節の移り変わりはある瞬間にピタリと止まった。そこに広がる光景はとても興味深いものだった。良い種蒔き人によって植えられた質の良い種たちは、天にも届くかと思われるほどの大木となり、香り良い花を多く咲かせ、豊かな果実を枝に実らせ、小鳥たちの住処となり、人々に憩いの影をもたらす柱となった。

それに対して、腕の悪い種蒔き人によって蒔かれた粗悪な種は、吹きすさぶ風に身をもたせ、しなだれて地を這うだけの木に成長した。花も果実も実らず、小鳥も人も近づかなかった。

その土地に人々が移り住んできた。家を建てるためには木を切り倒し、場所を確保しなければならなかった。質の良い木は残し、質の悪い木は切り倒されることになった。人々は綱を木に結びつけた。人々は斧を手に持ち、それを力強く木の幹に叩きつけた。斧を振りかざす人々には見えなかったかもしれないが、僕には確かに見えたものがある。それは木から流れ出る血だった。茶色に濁った粘り気のある血が、幹の切り込みから次々に溢れ出た。斧が叩きつけられるたびに血は吹き出し、人々の顔に返り血となって降り注いだ。しばらくすると、どれだけ斧を叩きつけても血が流れ出なくなった。すると木は根元から崩れ落ち、大地に倒れこんだ。人々は持っている斧をまた振りかざし、倒れた木を端から端まで切り刻んだ。人々はそれぞれ自分に必要な分の切れ端を集め、冬場の暖をとる薪としてそれを燃やした。

 

(続く)