思考のかけら

日々頭に浮かんだことを、徒然に雑然と書いていきます。

「木林森」1限目

一年二組の小川先生は黒板に「木」を書いた。

「皆さんはこの漢字を知っていますか。」

40人いるクラスメイトの半分くらいが手を真っ直ぐ天井に向けて挙げた。皆が口を同じ形に横に引き伸ばしながら「き」「き」と叫び出した。

「じゃあゆうやくん」

手を挙げずにじっと黒板を見つめていたゆうやが当てられた。

「き?」とゆうやはまわりを見ながら答えた。

「そうだね、「き」だね。なんでこの字が「き」なのか、わかる人いますか。」

クラスメイトの4分の1くらいがさっきよりも少し勢いがない程度に元気よく手を挙げた。

「じゃあかおりちゃん」

「「き」の形をしているからです」

「そうだね。実際にみんながグラウンドで見るあの「き」をイメージしてるんだね。こういう風に漢字っていうのは、物を見てイメージしながら出来上がっていくんだね。」

 そう言いながら小川先生は、ゆうやがまた黒板をじっと見つめて動かないことに気づいた。

「ゆうやくんはどう?」

「僕わからない。」

「そう?じゃああそこの生えてる「き」を見てみて。ずっと見てるとこの漢字みたいに見えてこない?」

「見えてこない。逆の方がそんな気がする。」

「逆ってなあに?」

「その字を上と下で逆にしたらあそこに生えてるやつみたいに見えてくる。」

「なるほど、先生が書いた「木」だと「き」の枝が垂れ下がってるみたいに見えるけど、逆にしたら枝も上を向いてて元気な感じがするよね。でも漢字だと上向きじゃないんだよねえ。」

「なんで上向きじゃないの?」

先生は少し考えてから答えた。

「枝が上から垂れ下がってた方が書きやすいからだよ。ほらみんな、試しにノートに先生が前に書いたみたいに「木」を書いてみて。書けたら、それが逆になるようにもう一つ書いてみて。」

みんなはノートに「木」を書いた。それの逆も書いた。逆の「木」を書いたとき、「先生書きにくい、書きにくい」と言う声が響いた。

「ね、外から枝を斜めに書いちゃうと、枝が下の線にはみ出しちゃうでしょ。漢字っていうのは、見たイメージも大事なんだけど、書きやすさも大事なんだよ。でももしかしたら、「木」の漢字も最初はゆうやくんが言ったみたいに逆だったかもしれないね。その方が見た感じ「き」だもんね。」

「僕逆の方が書きやすい。」

 

2限目に続く