思考のかけら

日々頭に浮かんだことを、徒然に雑然と書いていきます。

壁の蚊

三カ月前に壁に叩きつけた蚊の死体がまだ残っている。叩きつけた瞬間の姿は、過去見た多くの蚊の臨終の時と同じように、ありきたりでつまらないものだった。切れた弦を垂らすかのように、未練がましく後ろ足をゆっくり伸ばして死んでいった。腹から血を吐き出さなかったことから、一仕事やり遂げる前に果てたことがわかった。ゴキブリのように死んだふりをしておいて再び羽を広げるかもしれないと思い、死体をそのままにして様子を見ていたのだが、ついに動くことはなかった。どうせならこのまましばらく放置しておいてやろうという気になった。一ヶ月ほど経った頃は死んだ時の姿をそのままに残し、足が壁から生え出ているかのようにくっきりと残っていた。そろそろ壁から取り除かなければと思いながらも、生きている蚊を次々相手にしなければならないのに、どうして死んだ蚊の世話までしなければならんのだという気がして放置した。二カ月経った頃には壁から生えた足はなくなり、叩きつけた時の衝撃でへし折れた胴や羽が壁に張り付いているだけだった。黒い死骸がほくろのように丸まって見えた。三カ月経った今あらためて見てみると、蚊は黒い小海老のように身を縮こめて丸くなっている。以前ほくろのように見えた時よりも一回り小さくなったようである。ゆくゆくは壁紙の模様の一部となり、時とともに徐々に剥がれ落ち、化石ともなれずに私の記憶からも消え去るだろう。