思考のかけら

日々頭に浮かんだことを、徒然に雑然と書いていきます。

物の怪「皺撫で」

深夜遅くまで起きて勉強するより、早く寝た方が内容が記憶に残りやすい理由は、寝ている間に物の怪が枕元に座り、脳みそのシワに針を落として記憶を刻みこんでくれるからである。

この物の怪は盲目で、口と鼻に穴がなく、全身は真っ黒でこんにゃくのように柔らかい。腕は右腕しかなく、指は二本しかない。物の怪は枕元に正座して、穴の塞がった鼻を布団に押し付けて、生きた人間の生暖かさに触れ、寝ている者の爪先から頭のてっぺんまでを舐めるように鼻でなぞる。頭のてっぺんまで来ると、適当な毛穴を一つ探し、右手の二本の指で髪を一本抜き取る。物の怪が抜き取った髪を指先で端から端まで紐を捻るかのように弄ると、一本の鋭い針に変わる。針を毛穴に刺し、奥までぐいぐいと押し込んでいくと、脳みそに突き当たる。物の怪は脳みそのシワの溝に針を落とし、針が溝に刺さらないように優しく撫でていく。一息撫で終わると、毛穴から針を抜き取り、別の毛穴から髪を抜いて新たな針を作り、その毛穴に針を刺して同じように脳みそのシワを撫でる。これを何回か繰り返しているうちに朝日が差し込む時分になると、物の怪は慌てて闇の中に消えていく。こうして目が覚めると、脳みそのシワに昨晩の勉強内容が刻み込まれているのである。

この物の怪の来訪の有無を知る手がかりは、枕元の自分の抜け毛である。物の怪が髪を抜いて作った多数の針は、朝日の気配とともに元の髪に戻り、枕元に散らばっているのである。つまり抜け毛が多いほど、物の怪が多くの針を脳みそに落としてくれたというわけである。とはいえ、薄毛あるいは髪がない方が頭が良いかというと、それはまた別の話である。