犬のおまわりさん
まったくてめえはいい身分だよ。
そうやってニャーニャー泣いてれば、俺みたいなやつにも相手してもらえるんだもんな。
もしてめえがウキッウキッとか言うようなやつだったら、迷わず背負い投げをお見舞いしてるところだったぜ。
なんだ、首輪がついてるじゃねえか。
それがついてるやつは特権階級なんだぞ。
人間様の家に厄介になっちゃいるが、自由に動き回れる。
てめえみたいに迷子になっても、それがあれば誰かが見つけてくれる。
飯だって自分でゴミ箱から探してこなくても、人間様が毎日決まった時間に出してくれる。
これを特権階級と呼ばずになんて呼べばいいんだ?
向かいの家にいる俺の同士が見えるか?
あいつはいつもあそこにいる。
何故って、鎖で繋がれているからさ。
前はあいつもあそこで暴れてたんだがな、最近はめっきり体を動かそうともしねえ。
いくらジタバタしても無駄だってことに気づいたんだろうな。
その割に、人間様が飯を目の前に置いてくれたり、外に連れ出してくれそうな時には、3回回ってワンって言うのもお安い御用ってなもんで、尻尾を振り回して媚びまくるんだ。
ああいうのを「飼い馴らされる」っていうのさ。
俺の首筋を見てみろよ、鎖なんて見えないだろ。
でも俺はあいつよりもタチの悪い、頑丈な鎖で繋がれてるんだ。
一度つけたら二度と外せない。
てめえはまだ子どもだから見えないだけさ。
もう少し大きくなったら、嫌でも見えるようになる。
お、飼い主様が来たみたいだぞ。良かったな。
俺もそろそろ飯の時間だ。
今日も皿を目の前に置かれて、さんざ焦らされて、3回回ってワンって言わないと食わせてもらえないだろうな。
じゃあな坊主、もう来るんじゃねえぞ。
ここは良い子が来る場所じゃないからな。