急ぐ車。
普段の通勤時間に見られるような飛ばし方ではない。
嫌々ながら走っているわけではない。
向かう先に早く着きたいという、喜ばしい期待感にあふれている。
窓越しに見える車内の顔も、優しくほころんでいるようだ。
郵便局。
年内に郵便窓口に駆け込む人々。
手に持つのは年賀状だけではない。
あの大きな包みには何が入っている?
その笑顔は誰のために?
大切な人に何かを送っているのだろう。
この施設を最も有効に活用している姿が見える。
火の用心。
3つの世代が列をなし、良い年明けのための注意を促す。
近所迷惑だなどと無粋な言葉を投げる者はいない。
マッチ一本にも気をつけよ。明かりのない者はこの列に入れ。
遠慮はいらん、無礼講だ。
静かな町。
普段の喧騒が嘘のように静まり返っている。
外が静かな分、内はずいぶん賑やかだ。
明かりの漏れる窓辺からは、楽しげな笑い声が聞こえてくる。
身寄りのない者も大いに笑うがいい。一人で笑うのを恥ずかしがることはない。
笑えなければテレビをつけよ。誰かが笑う声が聞こえるだろう。
テレビもなければ外を歩き、そこらの家に挨拶するがいい。
無礼講だ。石を投げつけるような無法者はまさかいまい。
神社の提灯。
年明け前の準備で大忙しだ。
闇の中で淡く揺らぐ提灯の明かりは、まるで暗い海を照らす灯台のようだ。
誰でもここにいらっしゃい。身寄りのない人も、新婚さんも、お子さん連れも、誰でもかまわずいらっしゃい。
あの明かりに向かう人々の足取りは穏やかだ。
難しい顔はしない。
暗い海の中で見つけたみんなの灯台なのだ。何を争うことがあろう。
胸の中の希望。
年が明ければ何がある。
きっと今日とはそんなに変わらない。
それでも期待せずにはいられない。
胸に描かなければ何も始まらない。