「木林森」2限目
前回の授業
<2限目>
「次はこんな漢字を覚えましょう。」
先生が黒板に字を書いた。前の授業で皆が勉強した「木」という字が二つ並んで書かれていた。
「この漢字を知ってる人!」
40人いるクラスメイトのうちの30人くらいが勢いよく手を挙げた。爪の先から背骨が突き出そうなほどに力いっぱい上に突き上げられた腕が教室中に立ち並んだ。
「じゃあだいすけくん。」
「はやし!」
「せいか~い!みんな拍手~!」
パチパチと大げさなくらいに手を叩きまくる音が響いた。二人ほどがずっと手を叩き続けていたので、先生ははい終わりと言った。
「そうですこれは「林」という漢字です。この前勉強した「木」を二つ並べると、「林」になるんです。木が何本も並んで立っているところを「林」と呼びます。」
「先生」ゆうやが言った、「よくわかりません。」
「ゆうやくん、どのあたりがわからない?」先生がゆうやの顔を見て言った。
「木を二つ並べたら林になるってことは、あそこの運動場の木は二つ並んで立ってるから、あれは林ってことですか?」
先生が見ると、確かに運動場のジャングルジムの横に大きな木が二つ並んで立っていた。休み時間におにごっこをするときに、ジャングルジムからこの木に飛び乗ってオニをやり過ごす逃げ方が流行っており、子どもたちには馴染みの木だった。
「えっとねえ、先生あれは林じゃないと思うな。」
「でも先生は木が二つ並んでたら林になるって。」
「それはね、本当の木のことじゃなくて、字の木のことだけだよ。字の木が二つ並んでたら、それは林って読むんだよ。」
「じゃあ先生」ゆうやが尋ねた、「木が二本並んでも林にならないんだったら、木が何本並んでたら林になるの?」
先生はチョークから手を離して、親指と人差し指をすり合わせながら言った、「じゃあみんなで考えてみよう。木が何本あったら林になるでしょうか?」
100本!1000本!1億!1000億!1兆!1けい!1がい!むりょうたいすう!
「はいはい、いろいろ出たなあ。」先生が言った、「みんながこれだけいろんな数を言うんだったら、きっと林になるための木の本数っていうのは決まってないんじゃないかな。」
ゆうやが運動場を見ながら言った、「でも先生は木が二本並んでるときは林じゃないって言ったから、林って言えるようになるには最低でも木は三本必要で、それ以上は何本でも大丈夫ってこと?」
「そういうわけでもないと思うんだけどねえ。」先生は黒板消しを触りしながら、運動場のジャングルジムを見て言った、「さっき先生が、ジャングルジムの横の木は林じゃないと思うって言ったのは、あれが運動場にあるからだよ。」
「じゃあ先生」ゆうやが尋ねた、「あそこの二本の木が運動場の外にあったら、二本でも林になるの?」
先生は「林」の字以外の消し残しを黒板消しで綺麗にしながら言った、「そうだよ。」
「じゃあ、どこに木が二本あれば林になるの?」ゆうやが聞いた。
「じゃあみんな、木がどこにあれば林になるか考えてみよう。」先生がみんなのほうを向いて手を広げた。
山!富士山!樹海!とんだばやし!はやし!うちゅう!たいよう!
「またいろいろ出たね。これだけいろいろ出たってことは、どこどこに木があるから林になる、林にならない、ってわけでもないってことかな。」先生は黒板の「林」に黒板消しを持って行きながら言った。
「でも先生」ゆうやが首をかしげながら言った、「さっき運動場に木があっても林にはならないって言ったよ?」
キーンコーンカーンコーン、甲高く鈍いチャイムの音がみんなの頭の上に鳴り響いた。
先生は急いで黒板の「林」を消した。
3限目に続く