旅
「さあ旅をしよう」と考えるとき、大抵の場合、私たちは目的を最初に設定する。
最初に設定した目的を中心として、それを達成する過程を計画していくことが多いだろう。
何泊何日で、この空港から飛行機で行って・・・
初日はここに泊まってゆっくりして・・・
2日目はあそことあそこを観光して・・・
最後はあそこでお土産を買って・・・
私たちはまるで、目的に縛られているかのようだ。
目的を果たせなければ、旅は旅ではない、と思っているかのようだ。
目的とは、旅を旅たらしめるものではなく、あくまできっかけにすぎない。
急な風邪が原因で、ずっと計画していた旅に出ることができなくなったとしても、その旅は大成功である。
きっと旅のために幾日かの休暇を得ているに違いない。
ここはひとつ、普段眺めていなかった部屋の壁でも眺めてやるといい。
壁を眺めるのに飽きたのなら、今度はうつ伏せになって床でも眺めればいい。
普段見ていなかった景色を、時間の許す限り楽しんでやろう。
はたまた、よし旅の準備も万全だ、となったところで、とても重要な用事があることに気づき、そのために旅に出られなくなったとしても、その旅は大成功である。
そもそも旅のことを考えていなければ、その重要な用事に気づくこともなかったかもしれない。
そんなときは存分に自分の役目を果たせばいい。
時間はたっぷりあるのだから。
運よく計画通り旅に出ることができ、「よし目的地に着いたぞ、これから目的を果たすぞ」と意気込んだ時には、少し辺りを見渡してみよう。
本当にその目的を果たすことに残りの時間を費やしていいものだろうか。
本当に目を凝らすに値するものが、実は近くに散りばめられていたりはしないだろうか。
旅とは案外、目的とは全く別のところにある気がしてならない。