掘り起こした先生の手紙
お久しぶりです。
この手紙が読まれているということは、きっと皆さんが同窓会を開いて、昔校庭に埋めたタイムカプセルのことを誰かが思い出して、みんなで掘り起こしたのでしょう。
案外しっかりしたカプセルだったようで、先生は安心しました。
目で見て読めているということは、この紙もなかなか上質なものだったようですね。
この手紙を皆さんが読んでいる時、私はもうこの世にいないでしょう。
あなた達みたいなやんちゃな子の面倒を見ていれば、早死にして当然です。
あの頃だっていつ死んでもおかしくないくらいでした。
さて、今日の同窓会はいかがでしたか?
皆さんはもうすっかり大人になって、子どもの頃とは随分変わってしまっているのではないでしょうか。
夢を叶えた人、夢破れた人、健康な人、病気がちな人、子だくさんの人、独身の人、色々な人生があることでしょう。
それぞれの近況を確認しあって、昔話に花咲かせたのではないですか。
ですが私は皆さんに言いたいことがあります。
正直な私の気持ちを申し上げますと、皆さんには同窓会なんて開いてほしくありませんでした。
タイムカプセルも掘り起こしてほしくありませんでした。
皆さんには、過ぎ去った昔を懐かしんで、同窓会なんて開いている暇はないはずです。
せっせとスコップなんか使ってタイムカプセルを掘り起こしている暇もないはずです。
しっかりと前を見て自分のやるべきことに真剣に取り組んでいる人は、過去なんて振り返りません。
思い出は静かに胸にしまっておくものであって、あえて掘り起こすものではありません。
人生は短いということを、先生は皆さんに何度もお話ししたはずです。
この手紙を読み終わったら、というより全部読むのも暇人のやることですが、とにかく燃やしなさい。
二度とこんな手紙を読めないようにしなさい。
燃やし尽くしたら、すぐにそれぞれの家に帰りなさい。
帰ったら、これから自分がしなければならないことを書き出して、いつでも見える場所に貼りなさい。
その後すぐに風呂に入って、布団に飛び込んで眠りなさい。
明日はお日様と一緒に目を覚まして、今日書き出した紙を見ながら柔軟運動をし、自分のしなければならないことに取り掛かりなさい。
いくつになっても、私は皆さんの先生なんだなあと思います。
ホームルームもいつまで経っても終わりませんでしたが、あんなもの序の口ですね。
見送った後の方が皆さんのことを気にかけているくらいです。
それでは皆さんさようなら。
元気でね。