サンタさんの職質
こんなところで何を?
「見ればわかるでしょう、子供たちにプレゼントを配ってるんですよ。」
お仕事は何を?
「今はしてませんよ。どうでもいいでしょうそんなこと。」
ご家族の方は?
「一人ですよ。それ以上は聞かないでください。」
この辺りに住んでおられるのですか?
「ええそうですよ。近所の名もなきおじさんですよ。」
その服装は?
「だから見ればわかるでしょう。サンタさんの服ですよ。こういうのを売ってる店があるんです。知ってるでしょう?」
その袋はゴミ袋に見えますが?
「黒くて中が見えないから使ってるだけですよ。何にプレゼントをいれようが私の勝手でしょう。」
なぜこんなことをされてるんですか?
「いいですか、子供たちはサンタさんの存在に疑問を感じてしまっているんですよ!それもそうでしょう、自分の目で本当のサンタさんを見たことがないんですからね。親がサンタさんの格好をしてプレゼントを渡すなんてのもよくありますが、そんなもので子供の目を騙すことはできませんよ。子供もうっすらと気づいているもんです。そんな中途半端なことをしているから、子供たちが夢を持てなくなっているんですよ。何もこれはサンタさんの話だけじゃありませんよ。将来の夢のことでもそうです。将来サラリーマンになりたいとか、公務員になりたいとか、そんな子供が増えてるそうですが、嘆かわしいったらないですよ!そんな発想になるのも、全ては子供の頃の想像力が足りないからですよ。現実的な物の見方しかできなくなっているんです。いいですか、何を始めるにしても、想像力をもとにした大きな理想というものがないと駄目なんです。最初にとんでもなく大きなところから勢い良く始めないと、すぐに挫折しちゃうんです。辛いときにも大きな理想を思い出せば、また立ち上がれるんですからね。今は大人たちが想像や理想を軽く見ているから、子供達も同じように理想を持てなくなっているんです!私はそんな大人でいたくないし、子供たちにも大きな夢と理想を持ってほしい。だからこうしてサンタさんの格好をして、みんなにプレゼントをあげているんです。こんな誰も知らないおじさんがサンタさんだなんて、気味悪いですか?でもね、これが一番大事なんです。誰も知らないってところがキモなんです。親が自分の子供のためだけにサンタさんになっても、その姿はその子一人にしか知られていないんです。つまり、他の子たちとその姿を共有できないんですよ。それじゃ自信を持って「サンタさんに会ったよ!」なんて友達に言えませんよ。もしかしたら幼稚なやつだって馬鹿にされるかもしれないんですからね。でも少なくとも今日私がプレゼントをあげた子達は、同じサンタさんの姿を共有しているんです。これなら自信を持って皆に自慢できるでしょう?しかも名前も知らないおじさんですから、本当に遠くから来てくれたサンタさんだと思ってくれるに違いないですよ。」
そんなに熱くならないでください。子供達が泣いてますよ。
「あなたがこんなくだらないちょっかいを出してきたからですよ!あなたが変に話しかけてこなければ、私はずっとサンタさんでいられたんだ!ところがどうです、今や私は警官に職質される不審なおじさんに早変わりですよ。向こうの親御さんがひそひそ子供に耳打ちしてますよ。「あんなおじさんに関わっちゃだめよ」とでも言ってるんでしょう。どうしてくれるんです!あなたのせいですよ!あなたがあの子たちの夢を壊したんだ!もうあの子達は二度とサンタさんを信じないでしょうよ!夢も理想も粉々になってしまったんだ!あなたは取り返しのつかないことをしたんですよ!」
私は自分の職務を忠実に果たしているだけです。
「はは、それはご苦労なことですな!そうやってこれまでもたくさんの人の夢を壊してきたんでしょう!立派なお仕事に感謝しますよ!」
それでは一度近くの交番までご同行願います。
「どこへでも連れて行きなさいよ!まったく何てクリスマスだ!」