思考のかけら

日々頭に浮かんだことを、徒然に雑然と書いていきます。

魔女の一撃

おや、あんたも魔術を習おうってのかい。

最近は見習いに来る若いのが多いねえ。

こんな老いぼれのどこに憧れるのか知らんが、まあ年寄りの暇つぶしにはなるかね。

 

 

わしも色々魔術は心得とるがね。

中でもお気に入りなのが、あんたらが「魔女の一撃」って呼んどるやつじゃよ。

あの魔術は人間相手なら誰にでもかけられるんだ。

 

 

人間には腰があるだろう。

普段は意識せんかも知れんが、歩いたり走ったり、立ったり座ったり、物を運んだり置いたり、とにかく何をするにも腰を使ってるのさ。

つまりこの腰がないと人間は満足に毎日生活もできやしないんだね。

この漢字に「要」って書かれとるのも、それだけ腰ってのが大事なもんだってことさ。

 

 

この腰にちょいと魔術をかけてやれば、面白いことが起こるよ。

人間どもはあまりの痛みに悶え苦しんで、今にも死にそうな顔をするんだよ。

立つのも満足にできなくなって、無様に床を這い回るしかなくなるのさ。

くしゃみや咳をしようもんなら地獄の苦しみさ。

それを見るのがわしの最近の楽しみでねえ。

 

 

わしと同い年くらいの、元気のいい年寄りにこれをかけるのが楽しいね。

あいつらは死ぬまで健康な体だって威勢良く言ってるがね、なにこの魔術をかけてやれば、もうそんなことも言えなくなるのさ。

もう自分も若くないんだって、もうすぐ自分も死ぬんだって、そんな当たり前のことをようやく自覚するんだからね。

わしはあいつらがいつまでもウキウキした顔をしてるのが憎たらしくて仕方ないんだよ。

 

 

それからうんと若いやつにもかけてやるね。

前途多望で、これまで病気になるといえば風邪くらいだった元気いっぱいの若いやつが、いきなり未知の信じられない激痛に苦しむのさ。

あの子らはもう前みたいに、何も考えずにハツラツと飛び跳ねることはできなくなるよ。

わしは未来の希望を顔にキラキラ塗りたくった若いやつが大嫌いなんだよ。

 

 

わしを非道い魔女だって思うだろう。

まあ実際根性のねじ曲がったクソババアさ。

でもね、わしみたいに体が自由に動かないってのがどんなもんか、教えてやるのもいいかと思ってね。

何でも失ってみないと有り難みなんてわからんのが人間ってもんだからね。

 

 

おや、帰るかい。

それがええ。

あんたがまっとうな人生を送りたいのならな。

ひねくれた人生を送りたくなったら、またいらっしゃい。